我1,200kmをかく走行せり(内海太祐 2003.8 記)

0. 出走前まで- 期待 - 1. 疾走 2. 失速 3.回復 4. 大集団
5. 迷子I 6. 夜間走行 7. 補給不足 8. 楽走 9. 闇-疾走III
10. 迷子II - 冷気 11. 尻痛 12. 集団 - 疾走III 13. 老人と自転車

9. TINTENIAC - FOUGERES (闇-疾走III)
▲日中なら美しい景色や街中に飾られたオブジェを楽しむことができるが、夜は暗い。とくに街をはずれると月明かりがない限り闇の世界である。
TINTENIAC を出てしばらくは高回転でペダルを回すフランス人のおじさんと一緒に走る.しばらくしておじさんはいなくなってしまうが,寒くなってきたのでレッグウォーマーとアームウォーマをつける.道端で夜の準備をしていると高速集団が通過していく.通過しながら「一緒に来いよ」と言ったので急いで準備をして集団に追いつき走りはじめる.比較的落ち着いたペースだ.

しばらくして日は落ちはじめライトをつけて走りはじめるが,真っ暗な区間なので道が良く見えない.しかし集団は暗い中をライトを点灯しながら高速で走行していく.さすがに速度は落ちているが.彼等は道が見えているようだ.対向車などがあるとフランス人のおじいさんが何やら叫んで集団が整列する.どうやら自然にそういう決まりになっているようだ.

しかし,暗い道は恐ろしい.突然何かに乗り上げて少し飛んだかと思うとラットの死骸だった.いつものように肩が緊張してくる.道も狭いので集団の速度は30km/hを切っているが,それでも相当高速に感じる.私も水を取るのをほとんど忘れてついていくのに必死だ.この集団を逃すと道の暗さからおそらく相当速度が落ちてしまうに違いない.

しかし,気温は下がってきているので体力的な消耗は比較的少なくてすんでいるのかも知れない.必死でついていっていると時間を忘れていて,気が付くと FOUGERESに近づくき,街が明るくなる.ほっとして水を飲み,肩を回し,リラックスしているとコントロールに到着する.

コントロールポイントでチェックを済ますとボランティアの人から声をかけられる.かなり人懐っこい感じのお兄さんだった.しばらく話をしていると,それから日本人参加者を他にも知っているということ,その人は自転車を盗まれた髪の長い女性で,既にリタイヤしてしまったことなどを教えてくれた.「そうか,吉田さんリタイヤしてしまったんだな」残念に思ったがやはり自転車のことは大きいだろう.モチベーションも下がってしまっていただろうし.

そんな話をしているとそのボランティアのお兄ちゃんがもう一人の参加者を呼んで紹介してくれた.オーストラリア人で,結構若そうなインテリ風の人で,名前はスティーブさんという.一緒に食事をすることになった.私はそろそろお腹もすいていたので結構多めに食べた.

話しながら,フランスの道やドライバーの素晴らしいこと,オーストラリアの道も彼が普段走るところはあまり広くなくて,結構混雑して走りにくいことなどを話してくれた.「それからPBPを走りきるには足じゃなくて心と,それから頭だよ」と教えてくれた.これからどうするのか聞かれたので,とりあえず次のコントロールポイントまでは行って,次で寝たいと言った.しかし,今は下が見えないのでおそらく4時間はかかってしまうだろうと私が言うと,彼は一緒に行ってくれると行ってくれた.名前を聞かれたのでタイスケだというと「Steve and Taiで頑張ろう」と言ってくれた.さらに「僕のライトは明るいから大丈夫だよ」と言って握手してくれた.これならおそらく4時くらいには次のコントロールだから,そこで2時間半ほど休んで残りを10時間で行けば翌日の17時くらいにはつけるかな,と読んだ.

さて,彼はさっさと食事を済ませてしまったが,私はまだ結構あったので彼がさっきの場所に行っているよ,と言って席を立った.私は「うん」と返事をした.少し時間がかかったが,とりあえず食事を終えてみてから,さっきの場所って,どこだっけと思って食堂の前と自転車置き場とはじめにあったコントロールの付近とまわったが,既に彼の姿はなかった.ちょっと探す順番を間違えたかも知れない.「悪いことしたな,もしかしてまだ会場にいるんだろうか?でももしかしたらもう行ってしまったかも知れないな」そう思ってコントロールの付近のテーブルで,どうしようか悩んでいると眠気が襲ってきた.

仕方ない.ここで休むかと思ってマットの上に寝て,ビバークツエルトにくるまって寝ることにした.ここで本当だったらシャワーでも浴びておくべきだったのだろう.BRESTで補充するはずだったアソスのクリームも切らしてしまい,レーサーパンツの替えもない.寝転びながら,尻の痛くなりそうな予感がしていたのだが,もはやこの状態から何かを行動を起す余裕は無くなり,やがて意識が遠のいていった.

←BACK (9/13) NEXT PAGE TOP↑