我1,200kmをかく走行せり(内海太祐 2003.8 記)

0. 出走前まで- 期待 - 1. 疾走 2. 失速 3.回復 4. 大集団
5. 迷子I 6. 夜間走行 7. 補給不足 8. 楽走 9. 闇-疾走III
10. 迷子II - 冷気 11. 尻痛 12. 集団 - 疾走III 13. 老人と自転車

13. NOGENT LE ROI - SAINT QUIhENTIN EN YVELINES (老人と自転車)
最後のコントロールに入るとそこは随分小綺麗な場所だった.もしかしたら今までで一番綺麗かも知れない.チェックを済ませると先ほどのラモス髪のスペイン人の方が話しかけてくるが,スペイン語らしくまったくわからない.ジャージを指しているので「また交換してくれってことかな」と思って相手のジャージと自分のジャージを指して「exchange?」と聞くと,それはわかったらしく,首を振る.すると今度は向うが肩の印の方を指して人指し指を一本立てたので,「また日本人は1人か,といういつもの質問かな」と思ったので,首を振って,左手で2,右手で0を作ると期待通り驚いたような表情を見せた.なんとなく通じたみたいだ.その後何か喋ってくれたのだが,彼らはスペイン語しか喋れないらしい.「あなたと友達はとても速いね」と英語で言うと,それは理解してくれたらしくにっこり笑って手を差し出してきたので握手をして食事の場所に向かう.

そうこうしていると,集団の面々もやってくる.イギリス人が「70時間を狙っているのか?」と聞くが,既に18時近い.22時に着くのは今の状況ではちょっと無理だろう.そう思って時計を見てから「できれば,と思ってたけど難しいそうだね」というとイギリス人も「僕もそうなんだよ」と言った. # あとで考えればこのコントロールからでも22時45分なら十分可能だった. # 今はちょっと後悔している.

さて,最後のコントロールにはパリブレストも置いてあり,僕の大好物の葡萄も置いてあったりしたので,またもやいろいろ食べてしまった.18時25分くらいに最後のチェックポイントをスタートする.

ところがいきなりのピンチ.気が緩んだのだろうか.左側を走行しようとして向うからやってきたオートバイを驚かせてしまった.後ろから来たおじさんにフランス語で何がしか言われたがおそらく気をつけろというようなことだろう.やっぱり疲れているのかな.

走りはじめるとすっかりサイクリングモードになって,最後の道を楽しむようにまわりを眺めながら走る.すると横を年輩のイギリス人が走って抜いていく.ケイデンスが低いのに速い.無理をしない範囲でついていこうと思ったが,私も52-12Tで同じ回転数で回しみるとそれでも離されてしまう.かなり重いギアを使っているようだ.登りもかなり重いギアで淡々と登っていく.これでいままで走ってきたのだろうか.足に乳酸がたまらないのだろうか,などと思いつつ離されながら眺めていると,おじさんは先行するライダーをどんどん抜いていく.先行するライダーは軽いギアで速めに回しているのにそれをずっとケイデンスの低いおじさんが追い抜いていくのはなんとなくシュールな感じがする.

27,8km/hで走っていくとやがてフランス人の集団に追いつく.かなり大きな集団だ.最初は後ろから見ていたので気付かなかったが,この集団にはかなり高齢と思われるおじいさんが走っている.皆でそのおじいさんをサポートしながら走っているようだ.そのおじいさんは放っておくと中央線に寄っていってしまいそうになったりするので,その集団のリーダらしき人がたまに背中を支えて右に戻したりしている.

しかし…この状態でここまで走ってきたのか…

ある十字路で参加者ではないがその集団メンバーのの仲間と思しき人がジーパンにMTBという形で集団に加わる.時計を見るとこの集団のスピードで走っても十分71時間は切れそうだ.なんだかゴールに近づいている実感のわかない私はこの集団に加わってその雰囲気を分けて貰うことにした.

スタート地点で見たような道路があらわれ,ゴールが近づいていることを知らせる.老人は少し涙ぐんでいるように思われたが僕はここから集団の一番後ろに下がってついていくことにした.とはいってもこの老人,坂はしっかりと登っていく.結構速い.もちろんこの時間で走っているのだから当然といえば当然だが,なんだかちょっと自分が情けなくなってきた.ごまかしに後ろからカメラを取り出して老人とそれをサポートするメンバーを後ろから撮った.

市街地に入る.先を急ぐ人は集団を追い抜いていくが,私は焦らずに集団と一緒に行く.すると集団の一人が「初参加かい?」と聞いてきたので,「ええ, PBPは僕がいままで参加した中で一番素晴らしいイベントですよ.感動しました.」と言うと,フランス人もにっこりと笑った.

ゴールが近くなってくると信号が多くなる.スペイン人の2人組(前の区間とは違う人達)が集団を抜いていった.信号が赤になったのに先に行こうとしたのでフランス人に注意されてはじめの信号は止まった.しかし次の信号では制止を振り切って行ってしまった.フランス人の集団はしょうがないな,という感じでその二人のスペイン人を見送った.フランス人達も信号を完全に守ったわけではなく,実は私も一緒に行動したが,止まるべき信号とそうでない信号の違いでもあるのだろうか.

さて,時計を見るともうすぐ21時だった.21時前にはゴールに入りたいな,と思っていたが,かなり微妙だ.とはいっても今更集団から抜け出して単独で走るつもりはない.たまに気分の高揚からか数人がスピードを上げて行くが,やがて集団に戻ってくる.こんなことをしながら街の中をぐるぐる走っているといつの間にやらゴール地点に到達.たくさんの人が声援を送ってくれる.

それほどの感慨はない.なんとなくまだまだ走れそうな気がしている.集団と一緒にゴールしたのだが,チェックは彼らに先を譲る.老人がチェックを終え,私もチェックをしてもらうと,21時○分と見えた.「あらら,21時まわってしまった」と思ったが,まぁいい.もうタイムは一回目のPBP優勝者のタイムを上回ればいいと思ったくらいだ.

ゴール地点では管さんと齋藤さん,石丸さんが出迎えてくれる.しばらく話をしてから水を飲んで会場を後にし,管さん,齋藤さん,私の三人でサクレーのホテルに向かう.ホテルでは鈴木さんもいて出迎えてくれた.この日の部屋は管さんと一緒だ.荷物を少し整理して,シャワーを浴び,さっぱりすると冷蔵庫のビールを一本飲み干した.回復のためにも何か食べたいと思ったが,そういえばここには何もなかった.

あれこれ考えているといつの間にか眠りに落ちた.こうして私のPBPは終わった.

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