我1,200kmをかく走行せり(内海太祐 2003.8 記)

0. 出走前まで- 期待 - 1. 疾走 2. 失速 3.回復 4. 大集団
5. 迷子I 6. 夜間走行 7. 補給不足 8. 楽走 9. 闇-疾走III
10. 迷子II - 冷気 11. 尻痛 12. 集団 - 疾走III 13. 老人と自転車

8. CARHAIX PLOUGUER - LOUDEAC (楽走)
▲ルーティアックの待。どのコントロールも設備が整っているが中でもルディアックは仮眠する人も多く規模が大きい。
CARHAIX PLOUGUERを出てからLOUDEACに着くまではほとんど単独走行だった.特に面白いことも起らなかったが,辛いこともなく,淡々と距離をこなす.ちゃんと食べたため,体力的な回復も問題無い.

LOUDEACに着くと再び加藤さんと小泉君が出迎えてくれる.そろそろ補給食もいらないだろうと思い,補給食とBENTO BOXを預けてしまう.この時点で800km に近くなってきているが,まだ尻の痛みも問題無い.あと450kmと考えると気分的にはかなり楽で,65時間程度で行けるのではと簡単に計算する.再びランドヌール・ジャポンのジャージに着替えてさらに気分を替えて出発.

9. LOUDEAC - TINTENIAC (疾走II) 450kmを残し,45時間程度を経過している.足はまだ余っていて,昨日からほとんど使っていないので,どこまで行けるかわからないが残りの道程を思うといまのところ眠くないし,ほとんどフレッシュな状態に近いのでもしかしたら 25km/hで行けるかも知れないと思いつつLOUDEACをスタートし,低い姿勢を維持しながら一定ペースで走りはじめる.この時点で見ると比較的平らなこともあり巡行速度は30km/h程度だ.

LOUDEACから20kmほどのところで6人の集団を発見し,そのままその集団をパスした.…つもりだったのだが,ふと見るとその集団が後ろにピッタリとついている.3人はわりと若くて速そうな人だ.二人は初老の人で,おそらく昔のレーサといった感じ,もう1人は若いが少し太めに見える.するとこの集団が私を抜いてペースを上げはじめる.

「げげ,どういうこと?」と思ったが,このままあっさり抜かれては腹が立つし,この集団に乗っていけば楽ができるという計算も働いたかもしれない.この集団と一緒に走りはじめる.しかし…あまりにも速い.メータを見ると平地の巡行速度が40km/hを超えていた時もあるし,向かい風でも30km/hを超えている.ここに来て一番速いかも知れない.登りは普段私が登っている時より1枚以上は重いギアでないと回転数が上がりすぎてきつい.ふと見ると全員赤ゼッケン.覚えているのは28x番という番号があったことだ(一応伏せておきます). TINTENIACまで50kmちょっとだったこともあって,きついけどついていけば 30km/hを維持できるし,久しぶりに足を使ってもバチはあたらないとも思った.

この集団に乗りはじめてしばらくすると反対側から「内海さーん!」と呼ぶ声がする.ふと見るとマヤさんがニコニコしながら走ってくる.時間が結構厳しそうだけど,元気そうだな,それに比べてこっちは必死の顔してるのかな,などと思いつつ,頑張って笑顔を作って軽く手を振る.

走りながら若い人と初老の人はフランス人のようで,あとはイギリスx2,ロシアx1,オーストラリアx1ということらしい.しばらく走っていると平地のペースが30km/hに落ち着いてきて,若いフランス人が「このくらいのペースは大丈夫か?」と聞いてきた.「ちょっと速いけど,大丈夫」そう言ってにっこりと笑うと背中を叩いて,「O.K!」と言った.どうやら仲間に入れてもらえたみたいだ.よく見るとロシア人はいなくなってしまった.

そのまま走っているとシークレットコントロールに到着.自転車を置いてチェックをしようとする.ふとしたはずみでその集団に先行してチェックしていたオジサンの自転車を倒してしまう.「しまった!」と思って自転車を捕まえようとしたが,自転車の倒れる方が速かった.大事な自転車倒してしまって,フロントバッグから少し荷物がこぼれたのでえらく怒られてしまったが,しょうがない.これでトラブルあったりすると問題だし.一応soryとは言ってみたけど,フランス語で謝る方法はわからない.そのオジサンはほど無くして自転車の無事を確認して出ていった.でも,大事な自転車のわりには立てかけ方ちょっと甘くなかったかな.

集団にいたイギリス人が「仕方ないよ.でも,まぁ,気をつけて自転車は扱わないとね」というようなことを言ってくれた.こんな時にも集団というのは精神的にも救いになるものだな,と思いつつ自分達のコントロールのチェックを済ませて再出発.しばらくすると先ほどのオジサンがいたので,先頭を引いてパスする.別に嫌がらせじゃないけど.シークレットからは平均33km/hくらいで残りの区間を走ったようだ.きつかったけど距離をあまり感じずに TINTENIACに到着.

到着すると集団の一人が「僕らは20分後にスタートする.一緒に来るなら20分後にここに来い」と言った.ふと見ると即座にサポートらしき人達がボトルを勝手に詰め替えている.そういえば全員えらい軽装だった.どう考えてもこのペースで走っていたら人達このへんを走っている人に見えないけど,どういうことなのかな.と思っていたが,なんとなく区間ごとに練習をしているようにも見える.もしかすると夕食や睡眠はバッチリ取っているのかも知れない.

私はとりあえず「O.K.」とは言ったが,はっきり言ってこの一区間の80km程度だからと思って足を使ったので,もう一区間付き合わされたら持たないかな,と思いはじめていたので少し考えてしまった.実際,補給食を預けたのはCPで十分な補給ができるからと思っていたのだが,20分では水くらいしか替えられない.とりあえずコーラと水を買って,コーラを飲みながら「うーん,サプリメントとか補給食ってこんな時のためのもんじゃないかぁ!!」と判断が裏目に出たのを恨む.やっぱりサプリメントと多少の補給食くらいは全部携行してもたいした重さにはならないんだし,持っていくべきだった.

さて,結局この区間の補給はコーラ一本.でもこの集団に着いていけば8/20の私の誕生日中には確実にFOUGERESに着ける.この誘惑に勝てず,20分後にその場所に行くが集団はいない.もしかしてもう行ってしまったのかな,と思ったのでTINTENIACを後にする.それに,もし後から来たって絶対彼等は追いついてくるだろうし.

後から考えると,このたかが55kmと思っていたこの区間の判断ミスが最終到着時刻を大きく狂わすことになるのである.

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