我1,200kmをかく走行せり(内海太祐 2003.8 記)

0. 出走前まで- 期待 - 1. 疾走 2. 失速 3.回復 4. 大集団
5. 迷子I 6. 夜間走行 7. 補給不足 8. 楽走 9. 闇-疾走III
10. 迷子II - 冷気 11. 尻痛 12. 集団 - 疾走III 13. 老人と自転車

12. MONTAGNE AU PERCHE - NOGENT LE ROI (集団 - 疾走III)
MONTAGNE AU PERCHE からの残り140kmのうち最後の100kmはわりときれいな道だったような覚えがあった.だから40kmを耐えればあとは結構楽だろうと思っていた.実際30kmほど前の区間と同じように耐えながら走ると道が良いところが出てきてペースも上がってくる.

集団がいたのでそれを捕えると前日一緒に走ったイギリス人にまたも出会った.かれは右足の膝とアキレス腱を傷めたようだ.「あのフランス人達はハードなトレーニングしていたからね」と言いながら膝を軽く叩いた.「トレーニングなのか,あれは?」そう思ったが,かなり重いギアを疲れのたまった膝で踏んでたのだらおかしくなっても当然かも知れない.「僕はお尻がヒリヒリして痛いよ」と私が言うと,彼は「僕もだよ」と言った.

この集団は5,6人で結構いいペースで走っている.よく見るとおじさんの一人も昨日の高速集団で走っていた人の一人だ.もっと年のおじいさんも走っている.しばらくイギリス人と話しながら彼と僕で2列になって先頭を引く.「ところでさ,今年はコースレコードが出たようだよ」とイギリス人が言った.「へぇ,どれくらいかかったのかな?」と私が聞くと「38時間くらいらしいよ」と彼が答える.「…本当?とんでもないね.」と再び言うと「うん.小柄な人だよ.」と答えた.ちょっと自慢げだ.もしかしたら知っているのかもしれない.

そんな話をしていると道路の先の方に矢印があって直進のマークが出ている.真っ直ぐ行こうとしたのだが,その手前に右の矢印が出ていて私が集団を惑わしてしまう.その時点で私が右,イギリス人が左にいたのだが,私は私は真っ直ぐに行こうとし,イギリス人が右に行こうとしたので軽く接触してしまう.「ゴメン」と言って謝ると,「大丈夫だよ,でも38時間の集団だったら殺されてるけどね」と言ってにやりと笑った.結構いいやつだ.道は右に曲がってからぐるっとまわって直進する道だったのだ.先の方の矢印が先に目に入ってしまったのだ.

しばらくいい道が続いているのでイギリス人が「ずっとこんな道だったら 1,200kmなんてすぐなんだけどな」と言った.まったく同感だ.尻も痛くならないんじゃないだろうか.

しかし,やはりそんなにスムーズな道だけではない.やがて再び路面の荒い道路に出る.集団で走っているのでもう痛みなんてどうでもいいや,と覚悟を決めて走る.先頭を譲って後ろについて走るが速度は衰えない.痛みに耐えて座っていると痛みが麻痺してきているようで接触面の感覚が鈍い.腰を上げてダンシングした時の感じから水胞が潰れてしまったようなのがわかる.このころは集団全員口数が少なくなっている.

そのときである.後ろから車が抜いていったかと思うと「内海さーん」という声がする.ふと見ると石丸さんと松本さんだ.松本さんが走りながら集団の写真を撮る.「かっこいいよ〜」と石丸さんが叫んでくれる.心の中で,「そりゃ,そうさ」などとうぬぼれながら走っている.イギリス人が「プレス?」とつぶやいている.

私は集団の前の方に出て走ったが既にアドレナリンが出て尻の痛みを忘れている.我々の2列の集団は先行するスペイン人の2人組を捕え,そのスペイン人2 人を先頭に少し進む.右が鉄人28号みたいなずんぐりして手足の長い体型で,左はラモスみたいな髪をしている.鉄人28号の方はなんとなくBRESTのコントロール直前の坂でアタックしたスペイン人と似ている(もしかして同じかな).

しばらく行くと石丸さんと松本さんが車を止めてカメラを構えている.何枚か写真を撮ってくれた後,「内海さん,がんばってー!」と石丸さんの声が後ろで聞こえた.「もう,死ぬほど頑張ってるって」と小さくつぶやくと,イギリス人が怪訝な顔をして私を見た.

さて,写真を撮られる前後,先行するスペイン人がスピードを上げはじめた.「こいつら,スピード上げはじめたらペース落とさないクレイジーな奴等なんだ」とイギリス人が言ったのが聞こえたのか聞こえなかったのか列の左側で私の前にいたラモス髪の方がハンドルの下を持って何かしている.ふと見ると十字を切っているのだ.「え,なに?」と思った瞬間,そのスペイン人が「エスパッニョラ〜!!」と叫んだかと思うと突然のアタック.

私とイギリス人も反応して集団も速度を上げるが一瞬にして距離があく.「なんだよ,こいつら,こんなとこで!」と少し頭にきて追いはじめるが,スペイン人2人組と集団の間に入ってしまう.少し風があったので,「しまった」と思ったが,肘をハンドルの上に載せてエアロスタイルをとり,巡行速度が 42,3km/hで追いはじめる.スペイン人達もペースがおそらく40km/hくらいで落ち着いたのでなんとか追いついた.「1,150kmも走った後でなにやってんだ,オレは」ちらっと思ったが,そのバカさ加減にふと笑いが込み上げてくる.そのまま数百メートルを進み,尻の痛みが気になり出したころ,再びスペイン人の2人組が私の方をちらちらと見て目をあわせたかと思うと再アタック.

「マジかよ.こっちだって左膝と左のアキレス腱がちょっと危ない雰囲気なんだよ!」と心の中でつぶやいたが,残りも少ないはず.ちょっと躊躇したがそれで少し距離が空いてしまった.今度は下を持って45km/hくらいで追うが追いつかない.かれらは先頭交代をはじめてしまった.「この風じゃ,無理か」と思ったころ,彼らが左折.私も左折すると実はコントロールは曲がってすぐそこにあって,え?と思う間もなくコントロールに突入.

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